留学を経て10年

オランダ、ワーケニンゲン大学との共同研究は細々とながらもかれこれ10年をこす.発端 は、箱根で開かれた国際会議に来日したLyklema教授とFleer教授に巡り合い、色々と話しをし ているうちに、農業大学でコロイドの基礎研究を行うことへ共感したからに他ならない.出会い は人生を決める源だと思うが、この出会いによって、留学先が決まり、新たな生活が始まり、 研究のレパートリーが拡がった.

Lyklema教授はDLVO理論のOverbeek教授の愛弟子で、公職を退いた現在も、DLVO理論で 取りこぼされている拡散二重層の緩和や移動現象の問題に第一線の論文を発表して来る.生 涯をかけた一つのテーマへの固執は物凄いエネルギーを感じるが、同時にコロイドの研究室 を土や水処理、食品物性や環境分析などの応用へも導き、教授在任中は指導者として手腕を 遺憾なく発揮した.留学当初は、スタッフの人数、スペース、設備などに圧倒された.また、町 中にはファント・ホフ通りやファン・デル・ワールス通りもあり、市民生活への物理化学の浸透 に、底辺から頂点に至るまでどれ一つをとっても敵わんな(敵う必要が在るか否かは別として) と思ったのが偽らざる心境だった.

ただ、10年を経て、このような違いについて悲観する必要など殆ど無く、むしろ違いがあれば こそ、新しいものを生み出すチャンスが生じるのだと確信するようになった.コロイドのプロパ ーが知らない水理学を農工で学び、そのことに拘りを持っていたことこそ10年の研究展開の大 きな糧になった.共有と視点の違いが長続きの秘訣かも知れない.