土・水環境とコロイド

土壌を構成する数μm以下数nm以上の微細な画分を総称して土壌コロイドと言う。大きさは コロイドを定義する第一義的要素であるが、厳密に絶対値が定義されているわけではなく、あ くまでも下に述べるようなコロイド現象が出現し認識される目安である。下限値はコロイドの大 きさが、水などの溶媒分子に較べ十分大きい単位として認識されることで決まる。微細な大き さであれば必ずしも固体粒子である必要はなく、エアロゾルのような気液系や水と油あるいは 界面活性剤のミセルのような液々系もコロイドである。また、膜や繊維など少なくとも一方向に 数μm以下の特徴的長さを持つ場合もコロイドの範疇であり、大きな固体相にある微小な空 隙などもコロイドとして扱われる場合がある。通常の土壌中に存在するコロイドの画分としては 粘土粒子、腐植、土壌溶液から析出した鉄、アルミニウム、マンガン、シリカなどの不溶性の 酸化物や水酸化化合物、あるいは生物由来のたんぱく質、セルロース、界面活性剤ミセルな どの巨大有機分子さらには有機無機複合体、さらにはウィルスやバクテリヤなどの微生物など が対応する。現象面におけるコロイドの特徴は

  1. 比表面積すなわち単位質量当たりの表面積が大きいので、コロイド粒子を構成する分子間の作用力や吸着特性など粒子表面の化学的性質が土壌のマクロな性質を左右する原因になる。
  2. コロイドは構成される粘土鉱物の同型置換や破壊原子価、あるいは腐植やたんぱく質分子内の官能基の解離、さらに溶液中のイオンの吸着により帯電している。水中のH+やOH-はコロイド表面の官能基や破壊原子価と平衡状態にあることが多く、この場合にはコロイド粒子の符号や帯電量がpHに依存して変化する。また、帯電の状態は凝集や分散などコロイドの存在様式と密接に関係している。
  3. 単位となる粒子はブラウン運動を受ける大きさであり、かつまた沈降速度が著しく遅いため、一旦分散するとな かなか沈まない。このようにコロイド粒子が溶媒中に浮遊している状態をコロイド分散系(colloidal dispersion, colloidal suspension)という。
  4. コロイドの大きさは可視光の波長と同程度あるいはそれ以下であるため、コロイドの存在はチンダル現象と呼ばれる光散乱現象によって認識できる。

の4点が挙げられる。 土壌におけるコロイドの機能としては

  1. 巨大な比表面積と粒子固有の荷電や分子間力などを介して現れる表面化学的性質によって、植物の生育にとって不可欠な栄養素を吸着保持する作用。これは土壌の緩衝作用やイオン交換作用としても認識されている。
  2. 様々な化学物質と複合体を形成したコロイドが、地表や地下水中を移動することによってもたらされる物 質の移行に関与する作用。(これは、放射性核種やダイオキシン類などの危険性の高い難溶解性の汚染物質の輸送を促進する作用(Colloid facilitated transportation)として注目されている。)
  3. 団粒形成やチキソトロピーに代表される粘着性土壌のユニークな土質工学上の力学特性の出現に関わる作用。

の3つが重要である。(文責 足立,土壌物理学会編、土壌物理学用語辞典)