土・水環境とコロイド

土壌中には粘土や腐植物質などおびただしい量のコロイド粒子(土壌コロイド)が存在しま す。土壌コロイドは農地に施肥された栄養塩を保持したり、様々な土の緩衝作用をもたらす上 で重要な役割を果たしています。土壌コロイドは大別すると無機系の粘土鉱物と腐植と呼ばれ る有機系の高分子化合物に分けられます。土壌コロイドを理解することは、土のイオン交換能 や肥沃性の解釈、あるいは土壌侵食、塩類集積、地下水汚染、地滑り、砂漠化、泥炭地の改 良、残留農薬の流出などの対策に役立ちます。  一方、河川や湖沼に流出したコロイド粒子は、その表面に大量の化学物質を吸着濃縮する 能力を有しており、ダイオキシンなど有害な汚染物質や栄養塩のキャリアとて見逃すことは出 来ません。オパーリンは「生命の起源」の中で生命誕生の場を粘土表面に求めていますが、そ の観点からも土壌コロイドの特性を理解することは重要なことと思われます。  興味深い点は、コロイド粒子は海水のような高い塩の濃度下において、分子間力の作用に よってお互いに集まり、凝集し沈殿する性質にあります。牛乳がヨーグルトになって次第にかた まっていく過程、朝の味噌汁が段々と澄んでいくプロセスなどはその例です。浄水場ではこの ようなコロイド粒子が凝集する性質を利用して、水の濁りを落とし透明な水道水を作ります。干 潟が非常に高い生物生産性を有するのもコロイド粒子の凝集現象と無縁ではありません。こ れら環境中のコロイド界面現象は比較的身近にあるにも関わらず、まだ十分理解されていま せん。その理解は環境問題を考え、対策を立てる上で重要な鍵になると考えられます。