研究室Q&A

#1 この研究をはじめたきっかけ

もともと学部の卒業研究で水資源の研究室にいて役所(建設省)の測定したデータを使って流域管理計画などのコンピュータシミュレーションしていたのですが、自分でデータを取らずにコンサルタント業務のようなことをやって卒業することに疑問を感じていたとき、修士論文の指導教官の紹介で農業工学研究所に行って水処理の共同研究の実験を始めるようになったのが発端です。その後、縁あって筑波大学に勤めるようになったのですが、大学では企業などではできない基礎研究をしようと思い、コロイドの界面現象の基礎知識を深め、同時に生物環境分野への応用の展開を求めて研究を展開しています。

#2 研究室のアピールポイント

研究室の最も重要なアピールポイントは、基礎科学的な研究手法を重視している点です。 生物資源として扱われる題材には、土壌以外にも食品、紙パルプ、生物細胞、医薬などコロイドの題材となるものがたくさんあります。この幅広い適応分野においても身につけたコロイドに関する基礎的な専門やノウハウは卒業後の進路選択においても強力な武器になります。また、凝集現象が関与するコロイド分散系のダイナミクスに関しては世界有数であり、日本トップクラスにあると自負出来ます。

#3 この研究は何の役に立つの?

土壌中には、多くのコロイド粒子が存在します。これらのコロイド粒子は、農地において農薬や肥料などと作用するので、農学的に重要な役割を担っています。また、コロイド粒子は、化学物質を吸着濃縮する働きがあるために、ダイオキシンなどの有害物質の運び手となります。したがって、環境中のコロイドの理解を深めることは、環境問題の対策を考える上で重要な鍵になると考えられます。

#4 どんな人と研究したい?

一言でいえば心身ともに健康であり、好奇心が大勢であればそれでよいと思います。コロイドを学ぶ上では、物理化学や流体力学の知識が必要となりますので、物理や化学、数学などの基礎科目を習得することにベクトルが向いていることに越したことはありません。ただ、こうしたハードな基礎科目であっても、コロイドを題材に研究テーマを選んで実験を行いながら学ぶことができます。体育系の学生であっても、一年間みっちり卒論で鍛えられると驚くほど成長し、修士課程の間に国際学会での発表や国際誌への投稿まで達したことが何度かあります。ゼロからスタートするこのスタイルを一つの目標として、その第一ステップとして卒論指導を行いたいとも考えています。学会発表を通して、指導教員以外の外部の価値観に触れることが、本人の価値観形成においても大変大切なことだと思います。学内のカリキュラムではプレゼンの練習は何度もさせられて、ある意味素人の前で話をするのは、学生さんは大変うまくなったと感じますが、やはり問題は、発表する内容の中身であることをきちんと意識して欲しいと思います。こうした価値観を理解し、まじめに取り組んでいただける方は特に歓迎しますし、またその努力は必ず報われると確信します。

#5 就職先は?

研究職に就いたり、公務員、教職、民間企業など様々です。コロイド界面科学を身につけると、広義の化学メーカーにとっては非常につぶしの効く技術を身につけたことになりますので、修士レベルの就職には有利になります。また、最近は、土壌汚染の問題が重視される傾向にあり、これまで一見関係のない土木工学の分野などからコロイド化学の人材を特に必要としているとわざわざ人事担当者が来られることがあります。また、研究室のOBで大学教員になられた方が既に2名おります。

#6 筑波の良いところは?

普通の農学だとできないような、幅の広く、学問領域のまたがった研究ができることです。筑波大学はご存知のように、講座、学科制を取っていません。研究室に所属する大学院生も、生命環境科学研究科の1専攻に限られていません。ちょっと難しい話になりますが大学院の指導体制も必要に応じて数理物質科学研究科、システム情報工学研究科など他の研究科の先生にお願いして指導体制を組みます。コロイド科学は基礎的な事項を他分野と共有しており、こうした体制はある意味望ましいと考えられます。 また、立地的には農水や産総研などの研究機関があって、研究交流や共同研究などにおいて地の利があると思います。我々の研究室でも、農業工学研究所、農業環境技術研究所、茨城大学農学部とこれまで数多くの共同研究を行ってきました。また、つくばエクスプレスが開通して間もないのですが、研究室的には東京大学、東京理科大学、千葉大学、埼玉大学などと交流が活性化されたように思います。

#7座右の銘は?

「凡人は天才に学べ」これは私の師匠が言っていた言葉ですが、、、そう言ってアインシュタインのブラウン運動の論文(日本語訳ですが)を何度も何度も読みました。(今でも時々見返しますのでまさに座右の銘かも知れません)

#8 コロイドには興味があるのですが、土の物理学や実用解析にはある意味落ちこぼれていたので、研究室に入ってからやっていけるか心配です?

この心配はある意味取り越し苦労です。研究の材料としてコロイドを選択すると、実験をやりながら自分のペースで、これらの科目をマスターすることができます。特に、強調したいことは、研究を続けていくうちに授業科目の内容が生物資源学全般に共通する基礎として、幅広い応用性のあるものだと実感できると思います。この経験は、ある意味当研究室を専攻した方の特権だと思います。

#9環境ではなく、将来は食品分野に進みたいのですが?

これは十分可能な選択ですし、過去において我々の研究室ではスイスに本社のある大手食品メーカーの研究奨学金を得ていた経緯もあり、そのような人材の輩出を望んでいます。コロイドのハンドリングの技術は食品の製造プロセスに深く関わっており、企業側としても歓迎してくれるはずです。

#10 実験やフィールドでなく理論の研究がしたいのですが?

原理的には可能ですが、卒論からいきなり理論の研究をするのはリスクが大きいと思います。むしろ理論を目指す場合でも、最初は実験を経験するべきだと思います。

#11 アルバイトはできますか?

研究室に所属する学生さんは、家庭教師をはじめ、なんらかのアルバイトをしています。

#12 コロイドの研究は理学部で行われるものと思っていました。

確かに日本ではコロイドの研究は日本化学会コロイド界面部会が主催するコロイド討論会に出かけていきますと、農学部はマイナーな存在かも知れません。しかし、海外に目を向けると、オランダではワーへニンゲン(農業)大学で土壌、食品、微生物、紙パルプなどの各分野をリエゾンする形でコロイドの研究室が活性化されています。また、北欧やカナダに行けば林産科学の分野、オーストラリアに行けば資源工学の分野、など国際的に見れば、コロイドの研究が理学部だけで行われているというのは、極めて狭い見方だと思います。